佐々木俊尚さん 第5回:The End?

第5回:The End?

佐々木 俊尚(ささき・としなお)

作家・ジャーナリスト。

1961年兵庫県生まれ。愛知県立岡崎高校卒、早稲田大政経学部政治学科中退。 毎日新聞社、月刊アスキー編集部を経て2003年に独立し、IT・メディア分野を中心に取材・執筆している。「21世紀の自由論〜 『優しいリアリズム』の時代へ」「レイヤー化する世界」(いずれもNHK出版新書)「家めしこそ、最高のごちそうである。」(マガジンハウス)「キュレーションの時代」(ちくま新書)など著書多数。総務省情報通信白書編集委員。

IT技術が生み出す「新しい共同体」

前回は、極端な右や左ではない、穏やかで中間的な考え方をする人がたくさん存在する、ということをお話しました。そして、経済のグローバル化という逃れられない流れや、外交・安全保障問題の現実から目をそむけずに、多くの人が安心して暮らせる社会を作るための新しい共同体のありようについて、少しお伝えしました。

 そこでは、多くの人が排除されず、包摂されるイメージで、IT技術がそれを実現する、と私は考えています。残念なことに、日本において、IT技術は電子文房具くらいにしか捉えられていませんが、人間社会や人間のありようそのものを変える重要な基盤です。

 今、力を失いつつある日本のリベラルが抱える大きな問題は、何でも外側から他人事のように批判することでした。制度や仕組みは、権力者が作った、汚れたもの、と認識し、自分たちは外側からそれを批判する、という構図です。これは結局、批判のための批判にすぎず、何も生み出しません。

ジャーナリズムの解体

日本にある既存のジャーナリズムも、既存のリベラルと同様に、外側から権力を批判してきました。権力の外側にいる少数派を代弁する形を取りつつ、実際はマイノリティに憑依して安全圏から批判をするだけ。

 こういうジャーナリズムが意味をなさなくなってきた、と私は考えています。それは、IT技術の発達によって、当事者が発信できる時代になったからです。東日本大震災では、多くの方が被災しました。従来なら、現地を取材した新聞やテレビが被災者の声を代弁して全国に伝えていましたが、今回の大震災後は、被災者自身がtwitterやFacebookでリアルタイムに現地の実情や自分の気持ちを伝えることもありました。

 当事者が発信できるようになったことで、受け手の得られる情報精度は大きく上がり、それは人々の感覚や行動を変えていくでしょう。私は、テクノロジーと社会の相互作用に一貫して関心を持ってきました。SNSの技術的な側面もさることながら、それを使って人間が何をするか、どう考えるか、が大切であり、面白いと思います。

テクノロジーが変える、プライバシーの観念

IT技術の発展を、脅威と考える人もいます。例えばウェアラブルと呼ばれる身に付けて持ち歩けるコンピュータ。これを使って、運動量を計測して健康維持につなげるなど、様々な用途が考えられます。一方でコンピュータに自分の情報を見られて悪用されたら怖い、という声もよく聞きます。いわゆるプライバシーの問題です。

 現代を生きる人がコンピュータによるプライバシー侵害を心配する気持ちはよく分かりますが、そもそもプライバシーという概念は、ごく最近のものです。中世の人々は家族皆でひとつの布団で寝ていた、という記録もあり、プライバシーなどありませんでした。

また、現在でも年代によって、プライバシーを気にする度合いは大きく異なります。若い世代になると、恋人とキスしている写真をネットにアップしても平気だったりしますから、彼・彼女たちのプライバシーの感覚は40代、50代とはだいぶ違うと言えそうです。

 先ほどのウェアラブル・コンピュータの例で言えば、個人情報をコンピュータが一方的に蓄積するのではなく、本人に的確にフィードバックすることで、不安の軽減につながるのではないか、と私は考えています。例えば、身に付けたコンピュータが健康状態や注意事項を知らせてくれたりすれば、個人情報を本人が有効に活用できるでしょう。こんな具合に、テクノロジーの進化と共に、プライバシーに対する人々の考え方も変化していくと思いますし、どのように変化していくのか、とても興味深いです。

著者の立場で、変わったこと・変わらないこと

私のキャリアは1980年代、新聞記者からスタートしています。当時と比べると「物書く方法」は大きく変わりました。最初は「勧進帳」方式で原稿を送っていました。事件の現場は山の中だったりします。頭の中で書いた原稿を公衆電話で読み上げて、編集部にいるデスクに送るのです。当時、原稿は13文字×10行の原稿用紙に手書きで書いていました。

1989年、ワープロ専用紙が出てきたので、テクノロジーが好きな私は早速使ってみました。印刷した原稿をデスクに提出したら「どうも落ち着かない」なんて言われたことを覚えています。今も、農家の方のお話を聞く時など、立って取材する場合は、手書きです。

 本の原稿は、テクノロジーの恩恵を受けて、アウトラインプロセッサーを使って書いています。章立てなど論理的に構成を考えるのに向いています。

 時代と共に「書き方」や「使う道具」は変化してきましたが、一貫して変わらないのは、私の関心が、テクノロジーの変容とそれが人間社会に与える影響である、ということです。

若い人の話を聞くのが好き

変化は時に脅威に感じられることもあるでしょう。これまで信じてきたもの、拠り所にしてきたものが、なくなってしまうような不安を感じることもあるかもしれません。

 そういう中で、新しい道を見つけていくことが、私は好きなのです。

TABI LABOを始めるなど、若い人と関わっていると、テクノロジーの先端を見ることができます。自分にとって大事だと思うテーマをずっと見つめながら、柔軟に変化を楽しんでいくことが大事かなと思っています。








おわり